たばこを吸ってるんじゃない、深呼吸しているんだ。

5月に入ってからたばこをやめた。人生で2回目くらいの禁煙。10月からの増税で銘柄にもよるが、たばこ1箱20本で300円だったものが440円と大幅に値上がるのが最たる原因だったりするのだが、きっかけはそこではなかった。

たばこを初めてやったのは小学校三年生の夏休みと記憶している。親父の缶ピースをこっそり吸った、というかマネをしただけ。灰皿に一本だけすぐにもみ消したものがあったのでその日のうちにバレた。中学生のころ部活の先輩がやっていた。合宿で調子に乗って一本もらった記憶がある。高校生のときはたばことは全く無縁の健全なオタクライフを満喫していた。

社会人なってからまわりの友達に喫煙する輩が増えた。ちょうどそのころ自宅のリビングになぜか中南海の試供品が置いてあって、せっかくだからとそいつを吸ってみた。初めて煙を肺に入れた。咽た。いやいやそんなはずはないと何度もプカプカやってるうちに慣れた。そこから僕とたばこの関係が始まった。

人生で初めて買ったたばこはラッキーストライクのライトボックス、おまけでついてくるライター欲しさだった。そのときの貴重な動画が友人撮影のデジカメにより残されている。その中でも僕はやはり咽ていた。それからいろいろな銘柄に手を出したが基本的にはピースライト、アメリカンスピリット、ハイライト、ショートピース、というような順番で吸ってきた。2005年の6月20日のmixi日記に「そろそろ平和について考えてもいい年頃なのでピースを吸い始めました」と書いてある。ということは僕がタバコを吸い始めたのは2005年ということになる。現在2010年なので、たったの5年。そんなもんかとなんかちょっと安心した。しかしその短い間だったが、僕にとって特別な銘柄が最後に吸い続けていたピースだった。

僕は親父の吸うピースの匂いを四六時中嗅がされながら育った。小学校でたばこは悪という指導をされてきたので、当然当時の僕はたばこが大嫌いであり、大人になってもたばこなんて一生やるもんかと親を睨みつけていた。でも、他の人の吸うたばこは煙たく臭く嫌いだったが、親父の吸う缶ピースの匂いだけはものすごく大好きだった。社会人になりたばこを嫌う側から一転して喫煙する側にまわった僕、子どものころに嫌悪していたものが憧れに変わっていくのにそう時間はかからなかった。缶ピースはタール29mg、ニコチン2.5mgという数字の意味はわからないが、なんかとんでもなく身体に悪そうなスペックの、しかもフィルターなしの両切りたばこ。実際に親父がよく利用していたたばこ屋の店主も「ピース買うのもあんたで最後や。」と言われたらしいから、缶ピースを吸い続けると確実に早めに死ねる。僕はこれを2007年くらいから吸っていた。そんな愛着のある銘柄との別れを感動的なものにしたかったのだろう。

閑話休題

何の話だったか。そうそう、禁煙するようになったきっかけの話だ。僕は結婚しているが、嫁さんと付き合っているときにたばこはやめたことになっていた。まぁ実際は会社でも外でもずっと吸い続けていた。というのも僕は「たばこをやめる!吸ったら君と別れる!」とかなにかの拍子にファミレスで頭の弱い宣言をしてしまったから、吸ってると発覚するのはばつが悪かった。一度、たばこを吸っているのがバレて涙を流されながら怒られた。嘘はいけない。でもそれでも僕はやめる気なんてさらさらなかった。結婚してからも表面上はたばこを吸っていないことになっていた。嘘をついていることに罪悪感はあるのだが行動が伴わない。頭の中で、明日やめよう、来週やめよう、来月やめよう、来年やめようをずっと繰り返していた。嫁さんの前ではたばこを吸っていなくても、そんなもの臭いですぐバレているだろうし、嫁さんもそれをわかっててなにも言わないのだろう、たばこくらいいいだろう、といつしかそんな風に思うようになっていた。

そんな日々が続いていて、あるとき、4月の終わりだったか、テレビでやっていた喫煙とか禁煙の話題から嫁さんが「私はあなたを信じているわ」と突然言った。嘘はいけない。そうして僕はたばこをやめた。ちょど5月のGWだ。僕も嫁さんも連休で、僕はたばこを吸う暇さえなかったので、禁煙でもっとも苦しいといわれる1週間はやり過ごすことが出来た。

禁煙してみてわかるが、禁煙は難しくない。難しいと思うから失敗するのだと思う。ニコチン依存がどうとか言うが、結局は長年吸ってきた習慣が禁断症状にすり替わっているだけのように、僕自身は思えるがたぶん違うのだろう。たばこを吸わない人は信じられないだろうが、喫煙者は「そうだ!たばこを吸おう!」と、なんかちょっと楽しいことを思い出したような感覚になることがある。これが脳みそがニコチンを欲している状態、つまりは依存症なのだと思う。たばこを吸うとイライラが収まる、気持ちが安らぐとか、なんかそんな刷り込みがある。これはニコチンによる矛盾した効果だと多くの人が気付くだろうが、僕にはそうは思えない。禁煙してからたばこを吸いたくなることはたびたびある。そんなとき、決まって僕はたばこを吸うフリをする。そうすると自然とたばこを吸いたいと思う欲求が収まってくる。僕の中では、体は科学的にニコチンを欲している状態なのだろうが、精神的にはきっとたばこを吸う動作と深呼吸を欲しているのだという見解に変わった。

たばこを吸うとイライラが収まる、気持ちが安らぐ、ホッとする。

それ深呼吸でもできるよ。